交通事故で精神科に通院する理由は?発症する精神疾患や治療法も

交通事故で精神科へ通院する理由についてまとめました。交通事故が原因で発症する可能性のある精神疾患の種類と、治療先について解説します。精神疾患が後遺症となった場合の後遺障害等級の認定や、慰謝料についても解説しているので精神科を受診する際の参考にしてください。

目次

  1. 交通事故で精神科に通院する理由を解説
  2. なぜ交通事故で精神科が必要になるのか?
  3. 交通事故による精神疾患の種類と治療先
  4. 精神科で行われる治療法とは?
  5. 交通事故で精神科に通う費用や慰謝料の支払いは?
  6. 交通事故で精神科に通うのは精神疾患を治療するため

交通事故で精神科に通院する理由を解説

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交通事故に遭うと怪我をするだけでなく、心にも大きなダメージを負います。場合によっては日常生活に影響を及ぼすほど、大きな問題を抱えるケースも少なくありません。

精神疾患は目に見えないため、交通事故との因果関係を証明できるのか不安に思うことも多いでしょう。そこで本記事では、交通事故で慰謝料は請求できるのか、精神疾患は後遺症として認められるのか解説していきます。

また、精神疾患が後遺症となった場合の、後遺障害等級認定の申請についても解説しているので参考にしてください。

なぜ交通事故で精神科が必要になるのか?

精神的なショックが大きい

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交通事故に遭うと、被害者の多くは精神的なショックを受けます。精神的ショックを受けることは特別なことではなく、むしろ自然な反応といえるでしょう。

しかし、精神的ショックがどの程度続くのか、ショックの大きさはどの程度かは、交通事故の規模や個人の性格によって差があります

精神的ショックを受けるのは正常な反応ですが、長い間続いたり、ショックが大きすぎる場合は精神科を受診した方が良いでしょう。

時間が経ってから後遺症が出ることも

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精神疾患は、交通事故直後に現れるとは限りません。交通事故に遭った直後は気が張っているため、通院や日常生活も問題なく過ごせるケースがあります。また、何らかの症状が出ているにもかかわらず、精神疾患だとすぐに気づかないケースもあります。

交通事故重症者の約3割が、事故から1ヶ月後にうつ病やPTSDを発症するといわれているので、しばらくは心の状態にも注目する必要があるでしょう。

出典:交通事故の精神健康への影響、うつ病とPTSD(厚生労働省)

日常生活に支障をきたす

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交通事故により大きな精神的ショックを受けると、日常生活にも影響が現れることがあります。車の運転や乗車が怖くなるだけでなく、過度に車を避けてしまうこともあります。

さらに「車は危険だ」「車に乗ると事故に遭う」「外を歩くとまた事故に遭う」といった誤った認知により、日常生活がままならなくなることもあるでしょう。

このような状態が続くことで不安感が強くなり、眠れない、緊張感が続く、事故の瞬間がフラッシュバックするといった症状に悩まされることにつながります。そのような症状が続けば、治療や仕事、日常生活にも大きな支障をきたしてしまいます。

交通事故の被害者は多かれ少なかれ精神的ショックを受けますが、症状が重く、日常生活に支障が出る場合は早めに精神科を受診しましょう。

交通事故との因果関係の証明

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交通事故が原因で、精神疾患を発症する被害者は少なくありません。しかし、精神疾患になる可能性は、本人の元々の気質や環境、事故の規模によっても変わります。

精神疾患の症状は分かりづらい上に、同じような交通事故に遭っても発症しない人もいます。そのため、交通事故と精神疾患の因果関係を認めてもらうのは困難です。

精神疾患と交通事故の因果関係を証明することは難しく、たびたび裁判でも争われています。交通事故から時間が経つほど証明が困難になるため、症状が現れたら早めに精神科を受診した方が良いでしょう。

後遺障害等級認定を申請するため

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厚生労働省は「うつ病やPTSD(外傷後ストレス障害)等、非器質性の精神障害については十分な治療の結果、完治に至らないものの、日常生活動作ができるようになり、症状がかなり軽快している場合には治ゆの状態にあるとして障害等級の認定を行います」と記しています。

つまり、精神科で治療をしたものの、後遺症としてうつ病やPTSDが残存した場合、後遺障害等級の申請ができるということです。しかし、精神科を受診しているだけで、後遺障害等級が認定されるわけではありません。

自賠責保険では、独自の後遺障害等級認定基準を設けています。基準を満たすためにも、精神科でしっかり通院し、治療することが必要です。

出典:神経系統の機能及び精神の障害に関する障害等級認定基準について(厚生労働省)

交通事故による精神疾患の種類と治療先

精神疾患①PTSD

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PTSDは、死を感じるような恐怖体験や、自分ではどうしようもない恐怖が心の傷となって発症するといわれています。

悪夢を見る、恐怖や辛い気持ちがフラッシュバックする、恐怖体験をした現場を避ける、神経が常に張り詰める、感覚が麻痺したり現実感が感じられなくなるといった症状が現れます。もちろん症状には個人差があり、事故に遭ったからといって必ず発症するものではありません。

ショックが大きすぎると恐怖体験を心の中で整理できず、記憶が飛んだり、時間経過が曖昧になることもあります。そのため、症状が現れたら、早めに精神科を受診しましょう。

精神疾患②うつ病

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気分が落ち込む、焦燥感が現れる、何をしても楽しいと感じられない、体が重く疲れやすい、眠れない、食欲がない場合はうつ病の可能性があります。うつ病は精神的症状だけでなく、疲れやすかったり眠れないといった、身体的症状が現れるのが特徴です。

うつ病は、精神的、身体的ストレスが原因で脳がうまく働かなくなっている状態で、日常生活にも支障が出てきます。気分の落ち込みや不眠、食欲不振は誰にでも起こる可能性はありますが、これらの症状がいつまでも続く場合は精神科で治療する必要があります。

治療先①精神科

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精神科は心の病気を専門に扱う科であり、心の病気そのものを治療します。カウンセリング目的で精神科を受診する人がいますが、精神科はカウンセリングを行う場ではありません。

あくまでも、投薬、医学検査、診断を行うのが精神科です。しかし、精神科に臨床心理士がいる場合は、カウンセリングを受けることもできます。まれに精神神経科と記載されている場合がありますが、精神神経科も精神科と同じ診療科です。

治療先②心療内科

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心療内科は「内科」といわれているように、精神的ストレスが身体に影響を及ぼした場合の病気を治す科です。精神疾患は、「心」と「体」の両方に影響を及ぼすことが多いため、精神疾患と身体の不調の両方を診てくれます

吐き気や頭痛、胃痛、手足の痺れ、疲労感など、内科を受診しても原因がわからない場合は、精神的ストレスが問題かもしれません。そのような場合は、心療内科を受診してみましょう。

心療内科は精神疾患と身体的疾患の治療をしますが、自殺願望がある、幻覚や幻聴がある、アルコールや薬物依存症などは精神科の担当分野となります。

精神科で行われる治療法とは?

治療法①認知行動療法

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交通事故の被害者は、強いショックにより「車は全て危ない」「外に出るとまた事故に遭う」といった誤った認知を持つことがあります。その結果、過度に車を恐れたり、外出できなくなります。

認知行動療法は、さまざまな精神疾患の治療に活用されている心理療法です。思考や行動の癖を把握し、自分の誤った認知、行動を整えていくように促すのが認知行動療法です

治療法②心理教育

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PTSDなどの精神疾患の場合、自身の病気を深く知ることが回復の手助けになります。不快な症状の原因は病気であることや治療法を具体的に知れば、それだけで患者の精神的負担は軽くなるでしょう。そのため、病気の概要や治療について詳しく説明するのが心理教育です。

具体的には、精神疾患についての情報の提供、自分を苦しめているのは症状の一部であることを知り、回復や治療の見通しを明らかにすることです

ひとりで悩むのではなく、専門家や同じ症状を持った仲間と、病気についての情報を共有できます。また、心理教育は家族に対しても行われることがあり、家族が抱える不安を解消することもできます。

治療法③薬物療法

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精神科では、上記の治療法と併せて抗うつ剤や睡眠薬といった薬物も処方されます。薬物療法に抵抗感がある人も多いですが、薬を正しく使用することは精神疾患の治療に効果的です。

確かに薬の中には、副作用が出るものもあります。しかし、副作用が怖いから薬を飲まないのではなく、医師に相談し、最適な薬を処方してもらうことが大切です。症状の重症度、体質、合併症に合わせて投薬されるので、しっかり医師に症状を伝えましょう。

交通事故で精神科に通う費用や慰謝料の支払いは?

自賠責保険や加害者側に請求できる

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交通事故に遭った被害者は、怪我の治療にも通わなければなりません。さらに精神科に通院することになれば、費用面での負担は大きくなります。交通事故の被害に遭ったとき、精神科への通院費用は誰に請求すれば良いのでしょうか?

精神科への通院費用を請求したい場合は、交通事故との因果関係が認められるかが大きなポイントです。精神科への通院が交通事故によるものと認められれば、自賠責保険や加害者に治療費や慰謝料を請求できます。さらに、交通事故の傷害慰謝料や、休業損害についても請求できます。

後遺障害として認定されるための項目

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精神症状

能力に関する判断項目

抗うつ状態

身辺日常生活

不安の状態

仕事・生活に積極的・関心を持つこと

意欲低下の状態

普通に作業を持続すること

慢性化した幻覚・妄想性の状態

他人との意思伝達

記憶または知的能力の障害

対人関係・協調性

その他の障害(衝動性、不定愁訴など)

身辺の安全保持、危機の回避

困難・失敗への対応

精神疾患が後遺症となった場合、後遺障害認定の基準に当てはまれば後遺障害等級認定の申請ができます。しかし、精神症状のうち1つ以上が認められ、さらに能力に関する判断項目のうち、1つ以上の障害が認められなければなりません。

精神疾患の後遺障害等級認定を申請する

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後遺障害の基準が当てはまれば、後遺障害等級の認定を申請できます。しかし、基準に当てはまっていても、後遺障害等級が認められるとは限りません。後遺障害等級認定を受けるためには、3つのポイントがあります。

ひとつ目は、精神科への通院が交通事故によるものだと証明できるかどうかです。因果関係があるかどうかは、発症時期や症状、他に原因が無いか総合的に見て判断されます。

次に、早期に精神科で医師の診察を適切に受けていたかも重要です。交通事故から時間が経っていた場合、他の原因を疑われたり、早期に治療すれば後遺症にならなかったのではないかとして、認められない場合もあります。

最後のポイントは、症状固定(治療しても症状の改善が望めないと医師が判断)まで治療しているかどうかです。治療によって改善する見込みがある場合は後遺症とはならず、後遺障害等級は認められません。

出典:精神疾患(うつ病、PTSDなど)と後遺障害等級の認定ポイント(Lega-Life Lab ホーム)

後遺障害等級認定等級①第9級10号

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通常の労務に服することができるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種に相当な制限がされるもの。就労しているか就労の意欲がある場合は、身辺日常生活を除いた能力に関する項目のうち、いずれかひとつが失われているもの。

あるいは能力に関する判断項目のいずれか4つ以上の能力について助言や、援助が必要な傷害が残っている場合。

後遺障害等級認定等級②第12級相当

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通常の労務に服することができるが、非器質性精神障害のため多少の障害を残すもの。能力に関する判断項目の、いずれか4つ以上について助言や援助が必要な障害を残しているもの。

就労意欲の低下、または欠落により就労していない場合は、身辺日常生活について適切または概ねできるもの。

後遺障害等級認定等級③第14級相当

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通常の労務に服することができるが、非器質性精神障害のため軽微な障害を残すもの。能力に関する判断項目のいずれかひとつ以上について、ときに助言や援助が必要な障害を残しているもの。

後遺障害等級認定ごとの慰謝料額

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等級

自賠責の基準

弁護士の基準

9級10号

249万円

(245万円)

690万円

12級相当

94万円

(93万円)

290万円

14級相当

32万円

(32万円)

110万円

後遺症が残った場合、後遺症が残ったことによる精神的苦痛に対して後遺症慰謝料が支払われます。後遺症慰謝料は上記の通りです。自賠責保険と弁護士では後遺症慰謝料の基準が違うので、金額も異なります(かっこ内の金額は2020年3月31日までに発生した事故に適用される金額です)。

出典:後遺障害慰謝料とは?(平松剛法律事務所)

交通事故で精神科に通うのは精神疾患を治療するため

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交通事故重症者の約3割もの人が、1ヶ月後にうつ病やPTSDを発症しているというデータからもわかるように、事故後、精神科へ通院している人は少なくありません。

精神科への治療費や慰謝料は、交通事故との因果関係が認められれば請求することが可能です。何らかの症状に気づいたら無理をせず、早めに精神科へ通院しましょう。

この記事のライター

伊藤

女の子と男の子の子育てをしながら、フリーライターをしています。交通事故や怪我に関する疑問を解決できるよう、主婦目線でわかりやすく説明していきます。

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