ウォーキング・ハイ  

仕事の鬱憤晴らしで始めたウォーキングが10か月続いている。退社後、1時間から長い時で2時間以上歩く。
職場は品川にあり、浜松町とか新橋、ときに上野や新宿まで足を延ばすこともある。
 歩くと、たいていその日のストレスが解消される。歩く前は「ああ、ショックだった。いやな一日だった」と
思っていても、歩いたあとは「まあ、何とかなるさ。あしたはこうしてみよう」といったポジティブな気分に変わるから不思議だ。
 もちろん、歩きながら気持ちを落ち着け、考えを整理し、事態を合理化しようと努めていることは確かである
。だが、気分改善の原因は、これだけではないようだ。一定時間以上歩くと、脳内に「β-エンドルフィン」
「ドーパミン」「セロトニン」といった物質が分泌され、やすらぎ感とか高揚感などの快感が増してくるとさ
れている。ランナーズ・ハイという言葉はよく耳にするが、ウォーキング・ハイという言葉も、実は存在す
るのである。快感のあまり、何時間もかけてどこまでも歩き続けてしまう例もあるようだ。
 夕方から夜にかけて品川から新宿まで歩いたとき、途中から雨になった。私の場合、そぼ降る程度の雨で
あれば、傘をさして歩く。途中、六本木から外苑東通りを歩き、青山一丁目から信濃町に抜けるのだが、その
とき不思議な体験をした。頭の中が空っぽになったのである。こういう状態を脳科学的にどう説明すればよい
のか知らないが、何も考えていない、無の状態に浸った。ただ、意識だけは明晰で、ひたすら交互に歩き続
ける両足の動きを、いつもよりはっきりと感じていた。心が両足と一体化した、と言って良い。いささか不
気味な気もしたが、悪い気分ではなかった。これもウォーキング・ハイの一種なのだろうか。
 ウォーキングが肉体に良いことは周知の通りだが、心にも良いことをお伝えしておきたい。